深掘りコラム

投稿日:2024年08月19日/更新日:2024年08月19日

インクルーシブとは?多様性を受け入れる新たなビジネスアプローチ

インクルーシブとは、その人が持つ個性や違いを認め合う意味で、企業や教育の場、SDGsに紐づいて近年注目されているビジネスアプローチです。

しかし、インクルーシブの取り組みがいまいち分からないと、疑問に思っている方もいるのではないでしょうか。

本記事では、インクルーシブの詳しい内容や今後の課題などについて詳しく解説します。

インクルーシブとは?

インクルーシブとは「すべてを包括する」「包み込む」の意味で、障がいの有無や国籍、年齢、性別などに関係なくあらゆる人が排除されず、違いを認め合い、共生する社会を目指す意味です。

インクルーシブの理念が誕生したきっかけとは?

インクルーシブの理念は、1970年代のフランスで誕生

当時不況や移民の増加によって社会から排除された人々であるソーシャルエクスクルージョン(社会的排除)が問題となったことがきっかけで使われるようになりました。

近年ではビジネスの分野で、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)と呼ばれる言葉が生まれ、人材活用の基本理念として広く認識されています。

ダイバーシティとの違い

多様性を認める社会と聞くと「ダイバーシティ」を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか?

インクルーシブと似た言葉ですが、違いは「個性を生かして共生する意味を含んでいるかどうか」です。

ダイバーシティーは年齢、性別、国籍、価値観を認める言葉に対し、インクルーシブは年齢、性別、国籍、価値観を含めて共生する言葉といえます。

ノーマライゼーションとの違い

ノーマライゼーションとは、障がいの有無に関わらず人として当たり前の権利を受けて過ごせる社会を指します。

インクルーシブは障がい者に限定せず、あらゆる人が当たり前の権利を享受し、互いに共生する考え方です。

そのため、インクルーシブとノーマライゼーションは対象者が異なります

ノーマライゼーションは、障がい者や高齢者のような排除されやすい社会的弱者が対象なのに対して、インクルーシブは社会的弱者を含むあらゆる人が対象です。

ノーマライゼーションを発展させた考え方がインクルーシブともいえます

インクルーシブ社会に向けた取り組み

インクルーシブ社会に向けた取り組みは主に以下の2つです。

  • インクルーシブ教育
  • インクルーシブ公園

それぞれ解説します。

インクルーシブ教育

インクルーシブ教育は、すべての子どもが同じ場所や同じ機会で学べる教育を意味する言葉です。

「障がいのある子どもも一緒に」という文脈で語られることが多い一方で、広い意味では、国籍や言語などの違いも受け入れ共生するための教育ともいえます。

インクルーシブ教育は、1994年にUNESCOが開催した「特別ニーズ教育世界会議:アクセスと質」で、サマランカ声明によって提示されました。

参照:サマランカ声明|国立特別支援教育総合研究所

世界的な認知度が高まり、2006年には国連総会で「障害者の権利に関する条約」が採択されています。

参照:障害者の権利に関する条約(略称:障害者権利条約)|外務省

日本でもインクルーシブ教育への仕組みづくりが進み、2007年の学校教育法改正の際には「障がいのある幼児・児童・生徒への教育」にとどまらず、障がいの有無やその他個々の違いを認識しています。

さらに、さまざまな人々が楽しく活躍できる共生社会の形成の基礎となるものと、特別支援教育の理念にインクルーシブの考えが盛り込まれました。

しかし、日本は国連から「分離された特別支援教育」と指摘されている現状です。

障がいのある子どもへの配慮やインクルーシブ教育のスキル向上など、課題は多く残されています。

インクルーシブ公園

公園においても、インクルーシブの考え方が取り入れられるようになりました。

例えば、親と一緒に乗れるブランコやバスケットブランコ、車椅子に乗ったままでも遊べる砂場テーブル、クッション性のある遊具などが存在します。

代表的なインクルーシブ公園として、皿形や椅子型など子どもに合った形を選べるブランコや車椅子でも通りやすい迷路を設置している「都立砧公園」があります。

ほかにも車椅子に乗ったままでも遊べる砂場や日光が苦手な子どもでも遊べる日除けスペースを設置した「としまキッズパーク」などが有名です。

障がいのある子どもと、そうではない子どもが一緒に遊ぶ交流が生まれています

公園に限らず、あらゆる人との交流が生まれやすい場所は、今後もさらに求められるでしょう。

インクルーシブと企業の取り組み

これまで企業は、社会貢献や対外イメージのために、障がい者の雇用や女性活躍推進などのインクルーシブ経営を取り入れてきた側面があります。

しかし近年では、多様性を持ったチームは単一的な属性のチームより個性を発揮でき、イノベーションの創出につながるという考えが広まっています。

自分の意見が尊重されていると感じられれば、積極的な発言につながり、新しいアイデアも生まれやすくなり離職率の低下はもちろん、優秀な人材の獲得にもつながるでしょう。

2020年にはLGBTへの配慮から、厚生労働省によって性別の選択肢を削除した履歴書が公開されました。

参照:新たな履歴書の様式例の作成について|厚生労働省

「無意識の偏見」(アンコンシャス・バイアス)は、思い込みや偏った考えで誰もが多かれ少なかれ持つものです。

組織ではこれが悪いほうへ作用することもあるため、さまざまなアンコンシャス・バイアスに気づくための研修を取り入れている企業も存在します。

インクルーシブマーケティング

インクルーシブマーケティングは、現状で排除されている少数派の意見を尊重し、多様性を重視するマーケティングの考え方を意味します。

少数派の視点が反映されれば、これまで見落とされてきた商品やサービスが生まれることが最大の魅力です。

その結果、ユーザーの選択肢が増え、満足度が高まることも期待できるでしょう。

インクルーシブマーケティングの例として、近年は化粧品のモデルに男性が起用されることも増えています。

男性のファンを取り込む目的もありますが、男性もコスメを楽しめるというメッセージを発信もできるため、新たな購買層の獲得にもつながる秘訣ともいえるでしょう。

少数派にスポットを当てるというより、従来のマーケティングでは注目されなかった少数派の視点を取り入れることで「多様性を持つすべての人へ届ける」という意思表示ができます。

インクルーシブの今後の課題

インクルーシブの取り組みには課題もあります。

教育の面からみると、必要な教育環境の整備が追いついていません

必要な配慮も一般的な支援にとどまっており、同じ教室で学ぶことが重要視される一方、個性を活かす教育にはまだ距離がある現状です。

また、教員1人で見るには負担も大きく、人員不足も深刻です。

障がいのない子どもたちがどう受け入れられるのかと、懸念されています。

そして経営面では、女性管理職を何%まで増やしたい、障がい者の雇用率を上げたいという数値目標に縛られがちな現状です。

数値目標を達成しても、それぞれがいきいきと働けていなければ意味がありません。

マイノリティの立場にある人が安心して働ける職場であること、ライフステージの変化に合わせた休暇や時短・在宅勤務などの制度を整えることなどの環境づくりが重要です。

まとめ

インクルーシブとは、多様な背景や特性を持つすべての人々を受け入れながら尊重し、共に成長する社会を目指す理念を意味します。

誰もが自分らしく生きる環境は、個人の幸福だけでなく、社会全体の発展にもつながります。

この理念を日常生活や職場で実践することで、より豊かで調和のとれた未来を築けるでしょう。

インクルーシブな社会の実現に向けて、1人ひとりが多様性を意識した思いやりのある行動を取り、生きやすい社会を目指すことが大切です。