投稿日:2024年05月29日/更新日:2024年05月29日
【事例あり】企業価値を高めるESG経営のメリット・デメリットを解説!
「ESG」は、2006年にはじめて登場しました。
近年では、SDGsが話題となり、ESGもさらに注目を浴びています。
しかし「ESGはよくわからない」と感じ、積極的に取り組めない人もいるのではないでしょうか。
本記事では、ESG経営についてわかりやすく解説し、取り組み事例も紹介しています。
ぜひESG経営に取り組んでください。
ESGとは
ESGは投資活動から始まった概念で、Environment(環境)・Social(社会)・Governance(企業統治)を考慮した投資活動や経営・事業活動を指します。
参照:ESGの概要|内閣府
ESG投資では、一般に企業の財務情報に加えて環境及び社会への配慮、企業統治の向上等の情報を加味し、中長期的なリターンを目指しています。
近年では企業経営においてもESGに配慮する傾向があり、ESGの考え方は投資に限定されるものではありません。
また、ESGという言葉は2006年にコフィー・アナン国連事務総長(当時)が金融業界に向けて提唱したPRI(Principles for Responsible Investment:責任投資原則)で初めて登場しました。
ちなみに、PRIとは財務情報に加えてESG要素を投資の分析や株式所有の意思決定、株主行動に組み込むことを定めた行動原則です。
ESG経営が注目される背景
ESG投資は、PRIにより投資の判断基準としてESGの観点が重要視されたことに始まり、世界的に規模を拡大しました。
これにより、必然的にESGを重視するESG経営が求められるようになりました。
ESG要素は社会的、時代的な要請に合わせて絶えず変化しており、長期的な企業の成長への要件であると同時にリスク要因にもなります。
そのため、企業経営で軽視できない要素と認識されています。
ESGとSDGsの違い
ESGと似た言葉に、SDGsがあります。
SDGsとは、国連サミットで採択された2030年までの達成を掲げた持続可能な開発目標です。地球規模の課題の解決を目指すために、貧困や格差、気候変動などの17の目標と169のターゲットから構成されています。
一方で、ESGは、民間企業と投資家が投資判断や企業経営の指標とするものです。
投資家は企業の長期的な成長可能性を判断する目的で、企業は自社の長期的成長と投資家の金銭的支援を得る目的でESGに取り組んでいます。
また、SDGsは「何を目指すか」を示す行動指針であるのに対し、ESGは「どう評価するか」の視点を提供するものです。
つまり、企業がESGに配慮しながら経営をおこなえば、結果的にSDGsで定められている目標の達成に近づいていくといえるでしょう。
ESG投資の種類
ESG投資は、ESG経営を導入している企業への投資ですが、そのスタンスにはさまざまな種類があります。
世界のESG投資額を集計している国際団体GSIA(Global Sustainable Investment Alliance)が定める7つの種類を紹介します。
ネガティブ・スクリーニング
環境や社会などに悪影響を及ぼす特定の企業や業種を、投資対象から除外する方法がネガティブ・スクリーニングです。
たとえば、タバコ産業や武器製造、賭博などに関連する業種や企業が排除されやすいでしょう。
また、近年では環境への配慮から、原子力や化石燃料を扱う業界や温室効果ガスを排出する業界が投資対象から除外されるケースも多くなっています。
ポジティブ・スクリーニング
ネガティブ・スクリーニングに対し、環境や社会に良い影響を与えるESG評価の高い業界や企業に投資する方法がポジティブ・スクリーニングです。
たとえば、再生可能エネルギーやリサイクルに関する企業や、ダイバーシティを意識した経営を行う企業などが挙げられるでしょう。
また、特にESG評価の高い企業への投資を、ベスト・イン・クラスといいます。
国際規範スクリーニング
ESGに関連する国際規範を基準に投資先を選ぶ方法が国際規範スクリーニングです。
ネガティブ・スクリーニングと似ている方法ですが、国際規範スクリーニングには業界の指定はありません。
国際規範にはさまざまなものがありますが、以下のものが挙げられます。
- 国連グローバルコンパクト10原則(UNGC)
- 国際労働機関(ILO)
- OECD多国籍企業行動指針
国際規範に満たないものを除外し、ESGへの貢献度が高い業界に投資できるのが国際規範スクリーニングです。
ESGインテグレーション
ESGインテグレーションでは、従来の投資で基準であった「財務情報」と、ESGに関連する「非財務情報」を組み合わせて投資対象を選択します。
PRIの第一原則にも明記されており、米国で主流となっている投資方法です。
サステナビリティ・テーマ投資
持続可能性(サステナビリティ)を重視して投資先を選ぶ方法が、サステナビリティ・テーマ投資です。
持続可能性に関するテーマには次のものが挙げられます。
- 再生可能エネルギー
- 水資源
- グリーンテクノロジー
- 持続可能な農業
サステナビリティ・テーマ投資は、SDGsとの関連性も高いため、年々増加している方法です。
インパクト・コミュニティ投資
インパクト・コミュニティ投資は「環境・社会への好影響」と「経済的なリターン」の両方を重視する方法です。
社会問題や環境問題の解決のための事業を行っている企業や業界に投資します。
企業エンゲージメント
自らが株主となり、ESGの課題改善に向けて企業へESG経営を働きかける方法が、企業エンゲージメントです。
株主総会で意見をしたり、経営陣と直接面談をしたりなど、さまざまなアプローチが考えられます。
ESG経営のメリット
企業がESG経営に取り組むと得られるメリットは次の5つです。
- 投資家からの評価が高まる
- 企業のイメージアップになる
- 経営リスクの軽減になる
- 労働環境の改善ができる
- 新しいビジネスチャンスの発見につながる
それぞれについて解説します。
投資家からの評価が高まる
ESG投資は、環境・社会・ガバナンスの問題に取り組む企業への投資として重視されているため、ESG経営に取り組む企業は、投資家からの評価が得やすいでしょう。
また、ESG投資では、企業がEGS経営を行って長期的な利益が獲得できると考えられており、ESGへの取り組みが評価されれば、事業に必要な資金を調達しやすくなります。
企業のイメージアップになる
ESG経営で社会問題に取り組む姿勢を見せ、ステークホルダーから信頼されれば、企業のイメージアップにつながります。
企業イメージが向上すると、従業員の仕事のパフォーマンスが上がり、必然的に企業の生産性も高まるでしょう。
また、求職者からの人気も出て人材不足の解消にも直結します。
このような流れができれば結果的に企業の業績も向上し、包括的な企業価値も向上するでしょう。
ESG経営は会社の可能性を広げる可能性を秘めています。
経営リスクの軽減になる
ESG経営の要素のひとつである「企業統治」への取り組みは、管理体制を強化し、経営リスクを低くします。
リスクが多様化する現代において、利益のみを追求する企業経営では想定外の事態が起きたときに経営が打撃を受けるかもしれません。
ESG経営は現代のVUCA時代に対応できる経営形態として、持続可能かつ安定的な経営の実現につながります。
VUCAとは、「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」を意味します。物事の不確実性が高く、将来の予測が困難な状態を指す造語です。
労働環境の改善ができる
ESG経営では、人種やジェンダーなどの多様性や安全に配慮するなどして労働環境の改善にも意識を向けています。
また、国際規範に沿ったESG経営を行えば、働きやすい環境がつくれるでしょう。
また、ダイバーシティやインクルージョンの推進を通して、誰もが活躍できる職場が実現できます。そのような企業では、従業員の定着率も上がるため、優秀な人材が集まる企業になります。
新しいビジネスチャンスの発見につながる
ESG経営で環境問題や社会問題に取り組むには、自社の事業が社会へどのように貢献できるかを考えなければなりません。
つまり、社会のニーズに応じた商品やサービスを追求し、新規事業の開発が期待できます。
また、社会的な問題を意識した商品やサービスは顧客からの共感も得やすいため、新規授業はさらなる企業価値の向上にもなるでしょう。
ESG経営のデメリット
ESG経営を行う際に考えられるデメリットは以下の3点です。
- 明確な評価基準がない
- 長期的に取り組まなければならない
- コストがかかる
1つずつ解説するので、デメリットも理解したうえでESG経営に取り組みましょう。
明確な評価基準がない
ESGは、近年世界中で注目されています。しかし、まだ歴史が浅く、統一された評価基準が存在しない点がデメリットです。
評価基準が確立されていないため、これからESG経営に取り組む場合、方向性に迷うかもしれません。
なるべく迷わずにESG経営に取り組むためには、他社の事例を参考にしたり、世界の動向を分析したりしながら、自社の事業内容や規模に適した取り組みを検討する必要があります。
本記事でも取り組み事例を紹介します。ぜひ参考にしてください。
長期的に取り組まなければならない
ESGの問題への取り組みは、成果が得られるまでに長い期間が必要です。
そのため、年単位の時間がかかる可能性を考え、よりよい内容や方法を模索し、継続して実施する努力は欠かしてはいけません。
また、成果を可視化するには、組織内部の課題解決となる「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の施策を積極的に推進するとよいでしょう。
コストがかかる
ESG経営は長期的に成長することや持続可能な企業になることを目指した経営であるため、費用対効果も長期的な視点でとらえなければなりません。
たとえば、以下の場合に追加のコストが必要になるでしょう。
- 環境に配慮した設備の導入
- 従業員に対する待遇の見直しのための費用
- 事業の開発・改善にかかる人材・時間
先述した通り、ESG経営は短期的な効果は期待できません。
加えて、多額のコストをかけても費用対効果が見込めない可能性もあります。数字上では損害を被ったように感じるかもしれません。
しかし、ESG経営とは、長期的な成長や持続可能な企業を目指した経営です。この点を念頭に置き、費用対効果も長期的な視点でとらえる必要があるでしょう。
ESG経営で取り組むべき要素
ESG経営を行う際には、以下の点を重点的に取り組みましょう。
- サステナビリティ
- ダイバーシティ
- 労働環境
- ガバナンス
それぞれについて詳しく解説します。
サステナビリティ
サステナビリティとは「持続可能性」を意味する言葉です。
具体的には、環境・社会・経済の観点から物事を長期的にとらえ、社会や地球環境の持続可能な発展に寄与しようとする考え方を指します。
環境への取り組みとして、以下の行動が考えられます。
- 再生可能エネルギーの活用
- 製品開発で再生資源を活用
- オフィスの節電や節水
- Co2排出量が減らせる社用車の導入
- ペーパーレス化
ESGへの取り組みとサステナビリティへの取り組みは共通点も多くあります。そのため、サステナビリティへの取り組みはESG経営の基盤をつくることにもつながります。
サステナビリティへ取り組む際は、事業内容が地球環境に与える悪影響や環境への負担を減らせる取り組みを策定し、できることから実行しましょう。
ダイバーシティ
ダイバーシティとは「多様性」を意味し、年齢・ジェンダー・国籍・学歴・心身の障害・スキル・価値観等、一人ひとりの個性を尊重しようとする考え方です。
個を尊重した環境は、社員の離職率の低下やエンゲージメント向上、人材確保の面で高い効果を発揮します。
ダイバーシティへの取り組みには、以下の行動が挙げられます。
- 外国人や障害者の雇用
- フレックスタイム制の導入
- 労働時間の見直し
これらの取り組みは、ESGにおける社会問題の改善につながります。さまざまな人材が安心して活躍できる企業を目指しましょう。
労働環境
ESGでは社外の問題だけでなく、社内の問題にも取り組む必要があります。また、労働環境の整備は、ESGへの取り組みとして力を入れやすい要素であるため、積極的に取り組みましょう。
労働環境への取り組みには、以下の行動が挙げられます。
- 長時間労働
- ハラスメント問題
- 雇用形態の違いによる待遇の格差
これらの点を中心に、企業の内部で改善すべき問題がないかを検討しましょう。
社員が心身ともに健康な状態で働ける環境をつくることがもっとも重要です。
ガバナンス
ガバナンス面では、社内の不正を防ぐシステム作りや業務効率化への取り組みが考えられます。労働環境と同様に、取り組みやすい要素だといえます。
ガバナンスへの取り組みとして、以下の行動が挙げられます。
- 社内取締役や監査役の設置
- 不正アクセスや情報漏洩を防ぐセキュリティ体制の構築
- ワークフローシステムの導入
- 社員の情報リテラシー向上のための研修実施
- 内部通報制度や窓口の設置
- リスクマネジメントの強化
- 企業の内外に対する情報開示と保護
特に、情報開示や保護は透明性の高い企業として信頼され、ESGにおける評価を得るために重要です。
ESG経営の取り組み事例
最後に、ESG経営の取り組み事例を4つ紹介します。
このほかにも多くの企業がESG経営に取り組んでいます。
複数の事例を比較検討し、自社の状況に近いものを参考にしてください。
JR東日本
JR東日本では、グループの経営ビジョン「変革2027」の達成に向け、SDGsも念頭にESG経営を実践しています。
「変革2027」とは、「鉄道のインフラ等を起点としたサービス提供」から「ヒト(すべての人)の生活における『豊かさ』を起点とした社会への新たな価値の提供」へと「価値創造ストーリー」を転換していくことを基本方針とした、経営ビジョンです。
参照:JR東日本グループ サステナビリティレポート 2019|JR東日本
JR東日本では、各分野において下記の取り組みをしています。
- 環境:地球温暖化防止やエネルギー多様化
- 社会:サービス品質の改善や社会的課題への対応(子育て支援・多様な顧客への対応・国際鉄道人材の育成など)、文化活動への支援
- ガバナンス:究極の安全やリスクマネジメント、コンプライアンス
また「低(脱)炭素社会」の実現を目標に掲げ、鉄道事業のエネルギー使用量の削減を試みています。その結果、2021年度は14.9%削減の削減に成功しました。
なお、2030年度までに50%削減を目指しています。
花王株式会社
花王株式会社では、環境に配慮した包装容器の開発や、誰にとっても使いやすいユニバーサルデザインの製品の開発を行ってきました。
2019年には、ESG戦略「Kirei Lifestyle Plan」を発表しました。ESG経営に重点的に取り組み、これまで以上に高いレベルでの社会貢献を目指しています。
また、2030年までのコミットメントを策定しました。
- 「快適な暮らしを自分らしく送るため」
- 「思いやりのある選択を社会のために」
- 「よりすこやかな地球のために」
このコミットメント達成のために花王株式会社が取り組んでいる事例と効果の一部を紹介します。
事業活動におけるCO2排出量削減 |
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事業の使用電力を100%再生可能エネルギーで賄う |
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ごみゼロ社会の実現に向けた取り組み |
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花王株式会社では、ほかにもESG活動を推進するための強固なガバナンス体制を構築しました。
SOMPOホールディングス
SOMPOホールディングスは、ESG経営に優れた企業ランキングで4年連続1位を獲得している企業です。
気候変動による自然災害の増加が保険金支払いなどの事業に大きな影響を受けると考え、以下の取り組みを推進しています。
- 全国の各自治体と協定を結び、森林整備活動や環境教育を実施
- 社員食堂等でコーヒー等のカップをプラスチック製から紙製に変更
また「ダイバーシティ&インクルージョン」を、グループの成長に欠かせない重要な経営戦略のひとつと位置づけ、ダイバーシティ推進本部を設置しました。その結果、2021年3月末時点で、管理職に占める女性の比率は24.2%となっています。
ANAグループ
ANAグループは、ESG経営として以下の4つの重要課題に取り組んでいます。
- 環境
- 人権
- 地域創生
- ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)
また、ANAグループが推進するESG経営のサイクルは以下の通りです。
- すべての事業活動で安全を最優先し、コンプライアンスを遵守するとともにリスクマネジメントを徹底する
- ステークホルダーとの対話から社会要請を把握し、取り組みに反映させる
- インパクト評価から特定した重要課題の解決に向けて、事業活動を通じた取り組み状況を随時Webサイトなどで開示し、開示情報をもとにステークホルダーと定期的に対話する
これらの取り組みから、ANAグループは、社会的価値と経済的価値を同時に創出し、持続可能な社会の実現と企業価値の向上を目指しています。
まとめ
本記事では、ESG経営についてわかりやすく解説し、あわせて取り組み事例も紹介しました。
ESG経営は、社会問題を解決するための取り組みです。そのため、投資家からの評価が高まり、企業のイメージアップにもつながります。
また、労働環境の改善などを通して、社員もモチベーションを高め、優秀な人材が集まる企業になれば、さらに企業価値が高まるでしょう。
ただし、ESG経営にはデメリットも存在します。
すでに取り組んでいる企業の事例などを参考にし、長期的に取り組む必要があります。
これからの環境や社会のためにもESGを正しく理解し、行動しましょう。