深掘りコラム

投稿日:2025年08月20日/更新日:2025年08月20日

EUDR(欧州森林破壊防止規則)とは?対象品目や罰則について徹底解説

世界各国で、地球環境の保護に対する取り組みが強化されています。

日本も例に漏れず、再生可能エネルギーの活用などを推奨しており、個人単位でも取り組んでいる人も多いのではないでしょうか?

EUでは、森林破壊を防止するための新たな規制として「EUDR(欧州森林破壊防止規則)」を導入し、話題を呼びました。

では、EUDRとは具体的にどのような内容なのでしょか?

本記事では、EUDRの概要や目的を紹介するとともに、対象品目や罰則なども併せて解説します。

EUDRは2023年に誕生したルール

EUDRとは、EUにおいて2023年6月29日に公表された森林破壊と森林劣化を予防するための規則を指します

EUDRは、EU市場において販売される製品やEU市場から輸出される製品が、森林破壊に繋がっていなことを証明するための規則です。

森林破壊防止を目的とし、EU域内で流通している特定の製品がターゲットとなります。

そして、対象製品の生産過程で森林破壊に繋がっていないことの確認を企業へ義務化しているのです。

このことを、森林デューデリジェンスと呼ばれています。

EUDRでは、具体的に以下3つの内容が要求されている。

  • 森林破壊がないこと
  • 生産国の関連法令に従って生産されたものであること
  • コンプライアンス違反がないことを示すデューデリジェンス声明が存在すること

EUDRは当初、2024年12月30日から大企業に、中小事業者の場合は2025年6月30日から適用される予定でした。

しかし、十分な対応期間を与えるために大企業が2025年12月30日、中小事業者は2026年6月30日に延期されています。

また、具体的なシナリオや40件の質問が追加された、詳細なガイダンスが公表されました。

EUDRが掲げる3つの目的

EUDRは、森林破壊防止を最終目標としている規則です。

これを達成するために、以下の行動が求められています。

  • 温室効果ガス排出量の削減を図る
  • 森林破壊への対処を図る
  • EUで生産されたものが環境に影響を与えることを防止する

各行動について、詳しく解説します。

温室効果ガス排出量の削減を図る

EU内において該当商品の消費と生産活動のアウトプットとなる温室効果ガスの排出量を、最低でも年間3,200万トン削減することを目的としています。

2021年7月14日には、Fitfor55と呼ばれる法案が発表されており、2023年に重要法案が正式採択されました。

Fitfor55では、2030年までにGHG排出を55%削減するという目標が掲げられました。

この目標に従って、温室効果ガス排出量の削減を段階的に進める必要があります。

森林破壊への対処を図る

EUDRの対象となっている商品生産により、農業拡大が起因して引き起こされるすべての森林破壊に対処することが求められています。

森林破壊を止めて生態系を改善することにより、CO2レベルを下げる有効な手段であるとの考えのもと、さまざまなアプローチで森林破壊への対処を図る必要があります。

EUで生産されたものが環境に影響を与えることを防止する

EU内において購入や使用、消費される製品が、EU内だけでなく世界全体の森林破壊につながらないことを目的としています。

ヨーロッパでの生産と消費により、世界的な森林破壊と森林劣化に対して最も影響を与えているとされています。

そこで、後述する対象製品は森林破壊フリーとしなければならないことを求め、これ以上森林破壊の進行を食い止めようとしています。

EUDRの対象商品・事業所

EUDRは、EU内にあるすべての企業や商品がターゲットになるわけではありません。

ここでは、EUDRの対象商品と事業所について解説します。

EUDRの対象商品

EUDRの対象商品は、以下の7種類です。

  • カカオ
  • コーヒー
  • パーム油
  • 大豆
  • 天然ゴム
  • 木材

EUDRの条文上では、「商品の名称及び分類についての統一システム(Harmonized Commodity Description and Coding System)に関する国際条約」において定められている、HSコードの区分に従って対象品目が設定されています。

7種類と聞くと少なく感じるものの、実際には一部がカカオを原料としているチョコレートや、天然ゴムを原料とするゴム製タイヤなども対象となるため注意が必要です。

EUDRの対象事業所

EUで対象産品を販売・流通させる大企業や中小企業は、品目の市場流通量などに関係なく、全ての企業が対象となります。

ただし、大企業と中小企業、また事業者1および取引業者2という区分が存在し、それぞれ以下のように要求レベルは異なる。

企業規模 要求内容
大企業(非中小企業) 対象品目を販売流通させる事業者および取引業者の場合、EUDRの定める義務の全てが課される
中小企業の事業者 既に他社によってデューデリジェンス対象となっている製品は、デューデリジェンス義務が免除される。ただし、他社のデューデリジェンス手続きにおいてカバーされていない製品の一部についてのみ、完全なデューデリジェンス要件が適用される。
中小企業の取引業者 デューデリジェンス義務は免除される。

なお、EUDRの対象は「EUで製品を提供している事業者」となり、日本から輸出する場合はEU市場で対象製品を市場に流通させる、輸入事業者が当てはまります。

EUDRを違反すると罰則を受ける

EUDRの要求事項を満たさず違反した場合、罰則を受けなければなりません。

罰金として、環境被害と該当商品雄価値に応じた金額が科されることになります。

具体的には、EU域内における年間総売上額の4%以上の罰金や遵守できていない製品の没収などの処分を受けなければなりません。

また、販売により得られた利益を没収される場合もあります。

金額面以外でも、公共調達の候補から外れたり公共資金からの一時的な除外が科されたりするリスクがあります。

さらに、重大な違反や繰り返し違反を犯すと対象品目の一時取引禁止、または簡易デューデリジェンス手順の使用禁止となる場合もある厳しい内容です。

ほかにも、罰則を受けることで企業のブランドイメージが失墜する可能性もあります。

EUDRの適合証明に必要な3つのステップ

EUDRに適合していることを証明するために、以下のステップを踏む必要があります。

  1. 商品に関する土地の明示
  2. リスク分析・評価を実施する
  3. リスクを緩和する措置を実行する。

各ステップについて、詳しく解説します。

商品に関する土地の明示

森林破壊に繋がっていないのかを確認するため、EUに出品される商品とそれが栽培された土地との正確な関連付けを行わなければなりません。

そのため、土地の位置座標を取得する必要があり、誰でも簡単に対応できる内容ではありません。

土地に関する情報の収集とともに、以下のデューデリジェンス情報を収集します。

  • 製品の内容
  • 事業者情報
  • 森林破壊を伴わない製品であることの証明情報
  • 合法性を示す情報

リスク分析・評価を実施する

事前に準備した商品の生産に使用された土地などのデューデリジェンス情報は、EUが提供しているITシステムを用いて報告し、その内容をEUが確認を行います。

また、必要に応じてEU各国当局への提出も必要です。

衛星監視ツールやDNA分析などにより評価して、製品がどのような土地で生産されたかをチェックしてリスクを分析・評価します。

判断基準として、主に森林破壊や劣化の速度や対象製品のための農地拡大の速度、対象製品の生産と動向などがあります。

リスクを緩和する措置を実行する

実施したリスク分析や評価の結果、顕在化したリスクに対して緩和措置を取り、すべてをクリアしなければなりません。

リスク緩和の方法として、人権に配慮した対応が必要です。

ただし、低リスク国の場合はリスク評価とリスク緩和措置は不要となります。

EUDRの課題

EUDRは森林破壊を防止するための取組みである中で、以下の課題があります。

  • 地理的情報の取得が難しい
  • 生産国における関連法を順守していることの確認が必要
  • モニタリング体制を整備する必要がある

各課題について、詳しくみていきましょう。

地理的情報の取得が難しい

EUDRの対象品目に関連するサプライチェーンを完全に把握し、原産地の地理情報を取得する必要があります。

これは多くの企業において課題になる問題であり、特に4ヘクタール以上の土地を保有している場合、ポイントではなくポリゴンで敷地の境界も示すのが大変です。

生産国における関連法を順守していることの確認が必要

EUDRは、森林関連法に限らず幅広い法令が対象となります。

環境のみならず、社会面での対応も織り込んだ統合的な対応を図る必要があります。

特に、グローバルに展開している企業の場合、法順守をいかに担保できるかが重要な課題です。

モニタリング体制を整備する必要がある

EUDRでは、デューデリジェンス声明の情報を常に入手し、変更がある場合は自社内で取り込みアップデートする必要があります。

必要となる情報を現地にまでその都度赴いて収集することは現実的ではないため、正確かつ効率的にサプライチェーン情報を収集していく体制やシステムを構築・導入する必要があります。

まとめ

EUDRは森林破壊を食い止めるために誕生した規制であり、環境を保全するために守るべきものです。

ただし、実際にEUDRを順守するためのハードルは高く、相応の対応が必要です。

適用開始時期が迫る中、どのように対応すべきかを検討し、早急に行動することが望まれます。