深掘りコラム

投稿日:2025年08月20日/更新日:2025年08月20日

貴重な金属を回収・再利用する”都市鉱山”とは?活用するメリットや日本の取り組みを紹介

日本では、石油や天然ガスといったエネルギー資源に乏しいため、エネルギー自給率が低いことで有名です。

また、鉱物に関してもベースメタルやレアメタルについて、ほぼすべて輸入に頼っている状況です。

鉱物資源が少ない状況において、注目されているのが都市鉱山です。

都市鉱山を活用すれば、鉱物資源が少ない状況でも自給できる可能性が高まります。

では、都市鉱山とは一体どのようなものを指すのでしょうか?

本記事では、都市鉱山について活用するメリットや日本の取り組みを紹介します。

都市鉱山とは?

都市鉱山とは、都市で発生する使用済みの家電や電子機器などに含有する、金属資源を鉱山に例えて再利用を促す概念を指す言葉です

投資鉱山は1980年代に提唱された言葉であり、最近は世界的な脱炭素化の流れとリンクして必要な鉱物資源の枯渇リスクに備えた確保策の1つとなっています。

日本は、資源の多くを輸入に頼らざるを得ない実情があります。

調達網を多様化する意味では、都市鉱山の活用が不可欠。

家電リサイクル法に従って、金や銀、鉄といった金属の回収が進められている状況です。

電気自動車の電池に使うリチウムやニッケルなどの資源を、効率的にリサイクルできる仕組みづくりも必要となっています。

EV用電池などで需要が拡大しているレアメタルの確保について、主要7カ国が都市鉱山からの回収で連携している状況です。

米中対立が深まっている中で、生産大国である中国などからの供給途絶リスクに備える意味でも都市鉱山は必須と言えます。

都市鉱山は意外なところに多く存在する

日本では、都市鉱山は意外な所に多く存在しています。

ここでは、身近な都市鉱山について見ていきましょう。

家庭や企業に眠っている貴金属

家庭の中や企業の中にも、多くの貴金属が眠っているものが存在します。

特に、金やプラチナといった貴金属は非常に希少な金属であり、簡単には採掘できないため貴重な存在です。

埋蔵量が限られているだけでなく、地形などの問題があるため現在の技術力では採掘が困難であるものが多いです。

このまま需要が増え続けても供給が追いつかなければ、貴金属はますます手に入りにくくなるとみられています。

そこで、普段生活する身近にある都市鉱山が重要となってくるのです。

たとえば、携帯電話1台には平均して金が0.05グラム、銀が0.26グラム含まれていると言われています。

ノートパソコン1台だけでも、金が0.3グラム、銀が0.84グラムほど使用されているのです。

1台あたりの量は少ないものの、日本中にある携帯電話やパソコンの数を集めれば相当数の貴金属が用いられています。

電子機器や家電製品は使用されなくなると、自宅やオフィスに放置されがちなものをリサイクルするかが重要となっています。

日本の都市鉱山は世界トップクラス

日本は地下資源が少ないと言われているが、都市鉱山として見ると世界トップレベルの資源大国となっています。

国立研究開発法人物質・材料研究機構によれば、日本の都市鉱山の金は約6,800トンあるとされ、これは世界の埋蔵量の16%分に相当します

また、銀については世界の埋蔵量の22%分に相当する、約60,000トンも存在する状況です。

このように、豊富にある都市鉱山をいかに有効活用するのかがポイントとなっています。

都市鉱山の場合、貴金属をリサイクルすることによって自然の鉱山で採掘する場合と比較して効率よく貴金属を入手できるメリットがあります。

環境省によれば、自然の金鉱山より採掘される金鉱石1t含有する金は約5gと言われており、1トン分の携帯電話からは約280gの金が採取できるとされています。

また、自然の鉱山での採掘と比較した場合に環境に及ぼす影響の度合いが低いことも、都市鉱山が優れている理由となっています。

しかし、日本ではまだ都市鉱山を活用できているとは言いがたい状態です。

都市鉱山を活用することによる3つのメリット

都市鉱山を活用することによるメリットとして、以下3点が挙げられます。

  • SDGsへ貢献できる
  • 一次資源を代替する資源として活用できる
  • 環境影響を低減する資源として活用できる

各メリットの詳細を見ていきましょう。

SDGsへ貢献できる

都市鉱山を活用することは、SDGsの目標12「持続可能な生産消費形態を確保する」を達成するために重要な要素となります。

世界的に人口増加傾向にあり、また経済発展によって金属資源の需要が増加することで供給が不足し、その取引価格は上がっていくとみられています。

また、金属資源を生産と廃棄を一度限りとしてしまうと、環境への負荷がかかってしまいがちです。

この課題を回避・低減するために、二次資源をいかに有効活用できるかが鍵となっています。

そこで、都市鉱山の活用が大きな役割を果たします。

一次資源を代替する資源として活用できる

都市鉱山を活用することで、一次資源を代替する資源になるメリットがあります。

貴金属やレアメタルの場合、生産国が限定される関係上、様々な要因で供給が止まると、日本の産業に大打撃を与えてしまいます。

実際に、2010年のレアアースの供給制約は、資源の供給リスクがあることを認識させられる事例となりました。

そこで、鉱山資源を使用すれば供給が途絶えた場合のリスクを回避できる手段となります。

環境影響を低減する資源として活用できる

都市鉱山は、環境影響を低減する資源として活用できる特徴があります。

金属の場合、一般的に天然の鉱物から生産する場合と比較して、スクラップから生産した方がエネルギー消費量とCO2排出量などが抑えられます。

これにより、環境への影響を低減することが可能です。

また、天然の鉱物を採掘する際、露天採掘擦る場合は多くの土砂を移動させなければならず、周辺の生態系へも大きな影響が発生します。

そこで、二次資源を活用すればそうした影響も受けないメリットをもたらします。

都市鉱山の活用における3つの課題

都市鉱山を活用する際、以下3つの課題を念頭に置く必要があります。

  • 都市鉱山の把握が難しい
  • 使用済み製品の回収方法が不十分
  • 都市鉱山の発掘方法を確立する必要がある

各課題について、詳しく見ていきましょう。

都市鉱山の把握が難しい

都市鉱山はどの程度存在するのかをある程度把握できるものの、実際にどこに金属が蓄積して使用済み製品などで排出される可能性があるのかについて、情報は十分とは言えない状況です。

天然の鉱山を採掘する際の資源探査に相当する部分を、都市鉱山のより正確な状況の把握が重要視されています。

使用済み製品の回収方法が不十分

都市鉱山を活用するために、使用済み小型家電などを回収する必要があります。

使用済み小型家電などを回収するため、天然の鉱山において採掘や採鉱に相当する部分であり、高いコストの負担が必要です。

使用済み小型家電の回収に取り組む自治体は増加中である一方、回収量のピークとしては東京オリンピック特需の2020年度の約10.2万tにとどまっている状況です。

今後、さらなるリサイクルの周知などで回収するプロセスを確立する必要があります。

都市鉱山の発掘方法を確立する必要がある

経済的にリサイクルできる金属は、ベースメタルや貴金属を含めわずかしか存在しません。

多くのレアメタルは、リサイクルできていないのが実情です。

そこで、リサイクルするための技術開発が課題となっています。

使用済み小型家電の解体や破砕・選別などは、天然の鉱石でも破砕や選鉱、選別に相当する作業に該当し、既存のプロセスを有効活用したいものです。

都市鉱山を活用した事例

都市鉱山を活用した事例は、続々と増えています。

ここでは、具体的に都市鉱山を活用した事例を紹介するので、ぜひ参考にしてください。

電気自動車用の車載蓄電池

ヨーロッパでは、2020年12月に欧州電池規則案が発表されました。

これにより、レアメタルをリサイクルする都市鉱山に再び注目が集まっている状況です。

この規則案は、2030年1月1日以降にEV用蓄電池などに用いるニッケル、コバルト、リチウムについて、最低含有率を義務付ける内容となっています。

日本を筆頭としたEU域外の国においても、自国の電池やEVがEU諸国に販売できなくなるリスクがあり、注目されています。

東京オリンピックのメダル

2021年に開催された東京オリンピックでは、「都市鉱山からつくる!みんなのメダルプロジェクト」が行われました。

これは、アスリートに授与されるメダルを小型家電から回収するリサイクル金属で製作するという内容です。

オリンピック史上初の試みとなっており、国民参加型のプロジェクトとして約5,000個の金・銀・銅メダル用の金属を収集しました。

サステナブルジュエリー

オランダの「NOWA」は、アフリカで問題となっている廃棄スマートフォンの再資源化を推進する、「Closing the Loop」と提携して、サーキュラーエコノミーの仕組み作りに取り組んでいます。

Nowaという社名には、No Waste(廃棄物がない)という意味があります。

スマートフォンに眠る宝物を可視化するというコンセプトにより、使い古されたスマートフォンから美しいジュエリーを作成しています。

都市鉱山に対して個人でできること

都市鉱山に対して、個人でできることも多数あります。

ここでは、個人で実施できる都市鉱山に対する対応を紹介します。

家電を適切に処分する

個人で使用している家電は、家電リサイクル法に従い、適切に処分することが重要となります。

家電リサイクル法では、以下4つの家電が対象となっています。

  • エアコン
  • テレビ
  • 冷蔵庫
  • 洗濯機

役所などに設置された回収ボックスや、宅配便を利用して適切に処分すれば、それがリサイクルされて都市鉱山として活用される形です。

リサイクルに適したものを購入する

リサイクルしやすい設計の家電を購入することも、都市鉱山を考える上で重要となります。

具体例として、解体しやすい接合方法であるスナップフィットという手法に注目が集まっています。

これは、部品点数が少なく分解が容易なため、PCや家電製品のプラスチック部品を接合擦る際に使用されている状況です。

これにより、分解しやすくなり都市鉱山を容易に取り出しやすくなるメリットがあります。

まとめ

都市鉱山は、鉱物資源が少ない日本にとって貴重な考え方です。

しかし、概念は理解できても実際に都市鉱山を活用するためには多くの課題があるのは事実です。

本記事で紹介した内容を参考に、都市鉱山の活用を念頭に活動することをおすすめします。