投稿日:2025年08月20日/更新日:2025年08月20日
日用品から化粧品、半導体まで使われる”PFAS(有価フッ素化合物)”とは?健康や環境への影響や対策
技術の革新により、さまざまな物質が誕生している中で、最近になって危険性が指摘されるようになったものが多数あります。
特に有名な存在としてPCBやアスベストが挙げられ、現在では製造や使用が禁止されています。
また、昨今ではPFASが問題視されるようになっており、ニュースなどでも話題になるケースが多いです。
では、PFASとは一体どのような物質のことを言うのでしょうか?
本記事では、最近話題になっているPFASについて、健康への影響や対策について解説します。
PFASに対する危険性や対処を正しく理解して、安全に生活できる環境を整えましょう。

PFAS(有価フッ素化合物)とは?
PFAS(ピーファス:有価フッ素化合物)とは、耐熱性・撥水性に優れた人工化学物質群のこと。
PFASに指定される物質は約10,000種類以上もあるため、”人工化学物質群”と呼ばれています。
また、環境中で分解されにくいため「永遠の化学物質」ともいわれることも。
分解されにくいため、人体や生態系への蓄積が懸念されています。
特に、2000年あたりにPFASが人体に有害であることが明らかになり、生物への蓄積性を含めて大きな問題となっており規制が続いている状況です。
PFASが使われている主なモノ
PFAS(有価フッ素化合物)は、その撥水性・耐熱性・化学的安定性から、以下のような幅広い分野で使われています。
日用品・家庭用品
- フライパンのテフロン加工:焦げ付き防止に使われるPTFEもPFASの一種。ただし、PTFEは規制対象外です。
- 防水衣料・アウトドア用品:雨具や登山ウェアなどの撥水加工に使用。
- 化粧品・スキンケア:乳化剤や膜形成成分として一部に含まれることがある。
産業用途
- 半導体製造:洗浄剤やフォトレジストなどに不可欠な成分。
- 泡消火剤:空港や軍事施設などで使用されてきたPFOS・PFOA入り消火剤は、現在は代替品への移行が進行中。
- 電気絶縁体・ケーブル:耐熱性・絶縁性を活かして電子部品に利用。
食品関連
- 食品包装紙:油や水を通さない紙容器に使われていたが、現在はPFASフリーの代替品(例:王子ホールディングスの「オハジキ」)が登場。

PFASによる健康への影響
PFASがこれだけ多くのシーンで問題視されている背景には、健康への悪影響が多いという点が挙げられます。
PFOSやPFOAが体内に蓄積することで、がんの発症や胎児への発達異常を引き起こすリスクがあるとされています。
健康への影響が懸念されており、アメリカの環境保護庁では2022年6月に水道1リットルあたりのPFOS、PFOAの含有量として以下の基準を定められました。
- PFOS:0.02ナノグラム以下
- PFOA:0.004ナノグラム以下
PFASによる健康への影響として、特に以下の疾患を引き起こすリスクがあります。
- 腎がん
- 免疫力低下
- 脂質代謝異常
- 胎児や子どもの発育障害
それぞれの疾患について、詳しく解説します。
腎がん
腎がんは、腎臓の細胞ががん化して悪性腫瘍になったものであり、腎細胞がんとも呼ばれます。
初期症状がほとんどなく、健康診断などで偶然発見されることが多い疾患として知られています。
国際がん研究機関であるIARCでは、PFOAを4つの発がん性分類のうちグループ1(ヒトに対して発がん性がある)にカテゴライズしています。
動物実験において十分な証拠が得られていることや、発がん性があることを示す強い証拠が得られていることより、グループ1としているのです。
特に、腎細胞がんと精巣がんについて根拠があるとしており、PFOSはグループ2B(ヒトに対して発がん性がある可能性がある)と評価しています。
一方、食品安全委員会はIARCが実施した評価では、人における実際の発がんの確率や重篤性を示すものではないとしており、今後の更なる調査が待たれています。
免疫力低下
免疫力低下とは、体内の免疫機能が弱まって病原体や異常な細胞を認識や排除する能力が低下することを指します。
これにより、感染症にかかりやすくなったり他の病気の原因になったりする可能性があります。
欧州食品安全機関(EFSA)の調査によれば、PFOSとPFOA、PFNA、PFHxSの4種類のPFASがヒト血清中で高濃度になることで、免疫応答の低下を引き起こす可能性があると結論付けている状況です。
脂質代謝異常
脂質代謝異常とは、LDLコレステロールやHDLコレステロールなどの脂質が血液中で異常に増加または減少し、血液中の脂質バランスが崩れた状態を指します。
脂質代謝異常が発生すると、心筋梗塞や脳卒中、高血圧、糖尿病、肝疾患などのリスクが高まります。
2025年1月、信州大学のエコチル調査甲信ユニットセンターでの研究によって、PFASが血中の脂質と何らかの関係を持っている可能性があることが発表されました。
胎児や子どもの発育障害
2024年5月、京都大学の医学研究科である原田浩二准教授が行ったマウスを用いたPFOAの研究で、生まれる前の赤ちゃんに対して以下が確認されています。
- 死亡
- 体重の減少
- 生存率の低下
- 神経の発達への影響
- 骨の成長の変化
- 殖機能の発達の遅れ
また、母親の体内に蓄積されたPFOAの濃度が生まれた子どもの場合、心の発達に一時的な影響を与える可能性があるとされています。
一方、PFOAへのばく露が神経発達障害や行動障害と直接関係があるとは言えないと否定する研究もあり、生さが必要となっています。
PFASが今注目されている理由
改めて、PFASが今注目されている理由として以下が挙げられます。
- 特定のPFASに対して環境や人体への影響が認められる
- 難分解性・高蓄積性・長距離移動性がある
- アメリカでPFAS汚染訴訟が多数発生している
各理由について、詳しく解説します。
特定のPFASに対して環境や人体への影響が認められる
PFASに対して、先に紹介した通り環境や人体への影響が認められることが近年明らかになっています。
過去、人間が利便性を追求して生み出した物質が、後に環境や人体へ悪影響を及ぼす事例が数多くあり、PFASもその1つです。
難分解性・高蓄積性・長距離移動性がある
PFASには、共通して難分解性・高蓄積性・長距離移動性という特徴があります。
一度放出されたPFASは、環境中に長期間残留してしまいます。
これは、化学構造上強い特徴があるためです。
残留しているPFASは、河川水や海水の流れや雨として降り注ぐことで、発生源から遠く離れた場所まで移動してしまいます。
アメリカでPFAS汚染訴訟が多数発生している
アメリカでは、実際にPFAS汚染により健康被害を受けた住民よる訴訟が多数発生しています。
2023年6月には、アメリカの3MがPFAS汚染水の検査や処理などでかかる費用として、総額103億ドルを向こう13年間にわたり支払うという内容で、3Mを訴えていた関係自治体などと和解した事例があります。
2025年に入っても、サウスカロライナ州ジョージタウン郡の水道局が、20社以上を相手取って水道水からPFASを除去する費用や水道水を汚染したことへの賠償を求める訴訟が発生しました。
この中には、Appleやゴアテックスなどの有名企業や、日本企業も被告となっています。
PFASを規制する世界の動き
PFASは、世界各国で規制する動きが見られています。
ここでは、PFASの規制状況について解説します。
国際条約による規制
PFASの中でPFOS・PFOA・PFHxSの3種類については、ストックホルム条約(POPs条約)で製造・使用・輸入が原則禁止されています。
ストックホルム条約は、2023年11月現在で日本を含む184か国とEU、パレスチナが締結しています。
アメリカはストックホルム条約に署名しているものの、批准していません。
しかし、アメリカでは環境保護庁)が有害物質規制法の重要新規利用規則を通じて規制をかけており、PFASに対しても対応を図っています。
PFASを使用した家具の小売りや卸の禁止(アメリカ・コロラド州)
アメリカのコロラド州では、2024年1月1日にカーペットやラグ、布の加工などにPFASが使用されている場合、小売りや卸を禁止することを発表しました。
2025年1月からは規制の対象品目が増加し、カーテンや家具、ベッドリネン、タオル、テーブルクロス、布で覆った家具などが対象となっています。
さらに、2026年1月1日以降はコロラド州内のいかなる土地においても、PFASを使用した人工芝の設置が禁止されます。
衣類のPFAS規制(アメリカ・ニューヨーク州)
2022年12月末、ニューヨーク州のキャシー・ホークル知事が衣類へのPFAsの使用を禁止する法案に署名しました。
これは、アメリカ国内ではカリフォルニア州に続く2例目であり、2023年12月31日から施行されました。
ニューヨーク州内で販売される下着やシャツ、パンツなどの衣類全般において、撥水加工など意図的に添加された化学物質が禁止されている状況です。
化粧品のPFAS規制(ニュージーランド)
ニュージーランドでは、世界で初めて化粧品へのPFASの使用を禁止しました。
2026年頃から実施される予定となっており、化粧品の伸びをよくしたり、耐水性を高めたりするために使用されているPFASが人の免疫系への影響するため、この規制が追加されました。
日本におけるPFASの規制
日本でも、PFOSとPFOAの輸入・製造等が規制されています。
主に、水質管理と輸入・製造の2つの観点で規制されているのが特徴です。
それぞれの規制の状況について、見ていきましょう。
水質管理における規制
厚生労働省は、2020年からPFOSとPFOAを水質管理目標設定項目として位置づけており、合算値で50 ng/L以下とする暫定目標値を定めました。
これに従い、飲料水中のPFOSとPFOAの濃度が暫定目標値を超えないように、全国の水道事業者などに依頼しています。
また、環境省も厚生労働省の暫定目標値と同様に、公共用水域や地下水におけるPFOS・PFOA濃度を合算値で50 ng/L以下とする暫定目標値を定めています。
輸入・製造に関する規制
日本では、PFASの輸入・製造等に対して、科学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)に基づいた規制を進めています。
PFOSは2010年に第一種特定化学物質に指定され、2018年にはすべての用途で製造・輸入等を原則禁止としました。
PFOAについても、2021年に第一種特定化学物質に指定し、製造・輸入等を原則禁止となりました。
さらに、2024年2月にはPFHxSが第一種特定科学物質に指定されており、6月以降は輸入が原則禁止となっています。
日本のPFAS汚染状況
日本で規制が強化されている中で、実際に汚染事例が発生しています。
ここでは、日本におけるPFAS汚染状況を紹介します。
広島県東広島市
2024年9月に、広島県東広島市で瀬野川水系から高い濃度のPFOSとPFOAが検出されました。
暫定指針値の超過を確認したのは、瀬野川流域のみです。
汚染の原因として、広島市内のアメリカ軍川上弾薬庫において、旧式の泡消火薬剤を用いた消防車の点検や訓練が行われていた点が挙げられています。
岡山県吉備中央町
岡山県吉備中央町にある円城浄水場において水質検査を実施した結果、PFOSとPFOAが約1,400 ng/Lの濃度で検出されました。
有志による血液検査を受けた住民より、20 ng/mlを超えるPFOAが検出されています。
主な原因として、浄水場の水源となっている河平ダムの上流に設置されていた、使用済みの活性炭から染み出したと言われています。
22都府県242地点で国の「暫定指針値」超
2023年度の全国の地下水や河川などから、検出状況を国が取りまとめた結果より、22都府県の242地点において国の暫定的な指針値を超える濃度が検出されています。
超過地点があった自治体に対し、井戸水や河川の水を飲用として使用しないよう注意が呼びかけられる事態となっています。
家庭で実践できるPFAS対策
PFASに対する規制が進む中でも、今まで使用されていたものが検出される事態が発生しています。
そこで、家庭で実践できるPFAS対策を紹介するので、ぜひ参考にしてください。
浄水器を導入する
家庭での水道水に含まれるPFASを、浄水器により除去できる可能性があります。
東レが発売しているトレビーノでは、浄水器協会によって定められたJWPAS B基準に基づいた試験方法による試験を実施して、PFOSとPFOAを除去できる製品が揃っています。
しかし、どのような浄水器でも除去できるわけではなく、適合製品を購入することが重要です。
PFASフリー製品を選定する
PFOSやPFOAを使用していないPFASフリーと表記された商品を使用することで、PFAS汚染を防止できます。
PFASフリーは、主に調理器具や化粧品、衣類などで存在します。
しかし、日本ではまだPFASフリーの表記方法などが不明確であり、今後ルールの整備が望まれている状況です。
水質情報をチェックする
地域の水道局や公的機関などが提供している水質情報を、定期的に確認して基準内であるかを確認しましょう。
また、NHKでは「水道水のPFAS検出状況マップ」を公開しており、一目で検出された箇所を確認できるので便利です。
まとめ
PFASは、最近特に注目を集める物質となっています。
水質検査の結果、基準値を超過したというニュースも多く聞かれるようになっているだけに、無視できない存在です。
人体への影響が懸念されるため、少しでもリスクを経験するために本記事で紹介した内容を正しく理解して各種対応を図りましょう。